報道関係

2011年(平成23年)10月29日(土曜日) 朝日新聞
加害者作らぬ努力を
平岡さんの両親らが植樹したオリーブの木を、行方不明から2年たった26日、学生や教職員たちが手入れした=浜田市野原町の県立大
◆―下― 命の重さ/感じる力 育むきっかけに◆

 まだ残暑の厳しい9月4日、県立大に香川ナンバーの乗用車が止まった。降り立ったのは平岡都(みやこ)さんの両親だった。トランクから長さ約1・3メートルのオリーブの苗木3本を担ぐように運び出した。

 
少し前、両親から大学事務局に電話があった。昨年10月、平岡さんを記念する花壇「ガーデン・オブ・ホープ」の完成後、本田雄一学長が「ぜひ見ていただきたい」と伝えたことに対する返事だった。

 オリーブは平岡さんの出身地・香川県の県木で「友愛」「平和」「知恵」の象徴。植樹は両親の希望だった。「世界で活躍したい、平和な世界に貢献したいという平岡さんの夢を象徴する木で喜んでお受けした」と本田学長。記念花壇横に両親と本田学長、平岡さんが所属していたサークルの学生らが植えた。

平岡さんの担当教官は学内も案内した。ゼミ室やロシア語教室で平岡さんの席を紹介すると、両親はそこに腰を下ろし、母親はハンカチで目頭を押さえた。本田学長は「勉強熱心だったから期待も大きかったでしょう。植樹した学生たちも憤りを感じ、我が身に引き寄せて考えている様子だった」と振り返る。


 「被害者にならない努力には限界がある。ならば加害者を作らないようにしなければ。同じ思いを誰にもしてほしくない」。出雲市斐川町に命の大切さを伝え続ける遺族がいる。江角由利子さん(63)だ。

 次女真理子さん(当時20)が大学3年生の1999年12月、友人と軽自動車で遊びに行った帰り、鳥取県内の国道で車線をはみ出した飲酒運転の対向車に衝突されて亡くなった。ツアー添乗員を目指していた。「一生懸命生きていたことを知ってほしい」と2002年ごろから、少しずつ自身の経験を語り始めた。

 県内外の学校や刑務所などで年20回ほど「命の授業」を開く。家族の遺品を全国で巡回展示する「生命のメッセージ展」の運営も携わる。娘の死を思うと講演前は食欲が落ち、眠れない。徹夜の準備によみがえる記憶、遺品の数々……。

 それでも続けてきたのは「こんなに悲しんだと伝えれば、死んだときは親も悲しむということに気付く。相手も同じだという想像力が働くはず」という思いからだった。ただ仕事との両立や体力などから限界も感じている。間もなく迎える十三回忌を機に活動を見直すことを考えている。


 浜田市立美川小学校では今月から、命を「学ぶ」取り組みを始めた。赤ちゃんと触れ合い、思いやりの心を育む「赤ちゃん登校日」。江津市と邑南町に続き、市内では初めてだ。

 22日には5年生12人が11人の赤ちゃんと対面し、おむつ交換や誕生の様子などを母親に尋ねて理解を深めた。年内にあと2回、同じ赤ちゃんと接する。担当する市学校教育課の末岡論子主任主事(38)は「事件は命のあり方を考え直すきっかけになった。小さなころから命の重みや身近な人の気持ちを感じ取る力を育むきっかけを作りたい」と意義を話している。

連載は菱山出、岡田慶子、竹野内崇宏が担当しました。
 

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