報道関係

2012年(平成24年)5月10日(木曜日) 毎日新聞
追跡2012:松江市職員の飲酒運転 回避する道、いくらでもあるのに /島根
 ◇「人の命を奪うかもしれない」
 松江市の職員が先月、酒気帯び運転で逮捕、略式起訴された。県内での飲酒運転の検挙数は、罰則強化で一時減少したものの10年から増加しており、飲酒運 転による免許取り消し件数も急増している。この事件では、職員をかくまおうと警察にうその供述をしたとして飲食店経営者ら3人も犯人隠避容疑で逮捕され た。この事件をマイカー通勤者や飲食店業界はどう受け止めているのか。町を歩き、現状や課題を探った。【宮川佐知子】
 松江市職員の飲酒運転に絡む不祥事は昨年3月から4件目。ある男性職員(25)は「信じられない。朝礼で管理職が注意するのを何度も聞いた。罰則も厳しいのに」と話す。
 06年に福岡市職員が幼児3人を死亡させる事故を起こし、全国の自治体が飲酒運転の処分を厳格化してきた。県内では浜田、大田、江津3市が飲酒の程度や 事故の有無に関わらず一律免職処分を定めている。松江市は、飲酒の程度や事故の有無などを判断し、停職以上の処分を科している。この職員の処分は現在検討 中という。
 逮捕された職員は市街地から約20キロ離れ、公共交通機関の限られた美保関町から車で通勤していた。
 県職員の新田誠さん(47)は雲南市大東町から県庁まで約30キロを車で通う。飲み会の日は運転代行サービスを利用。タクシーだと1万円近くかかるた め、割安な代行が使えなかった場合、4時間半かけ歩いて帰ったこともある。「飲んだ日はホテルに泊まるという職員も多く、代行やタクシーより安く済むこと もある。飲酒運転を避ける道はいくらでもあったはず」と語気を強める。
    ◇
 飲食業界の受け止めはさまざまだ。
 県下随一の繁華街、松江市伊勢宮町のある飲食店経営者(51)は、客が店を出る前に必ず帰宅方法を確認している。5年前、鳥取県米子市で経営していた店 の常連客が飲酒事故を起こした。「代行を呼ぼうか」と尋ねたが「車で寝ていく」と言われた矢先だった。それ以来、遠方の客にはタクシーや代行を呼び、車に 乗るまで見届ける。「信用できる業者を呼んで客を見送ることは、その後のトラブル防止にもなる」と言う。
 宴会利用客が多い、同町の料理店店長(42)は本音を漏らす。「車と分かれば運転をやめさせる。でも駐車場がないので把握できない。それに店を出た後、どうやって帰るか根掘り葉掘り聞けない」
 一方で悪質な業者も。市内の男性飲食店従業員(69)は、客が運転して帰ると聞けば、仲のいい代行業者に警察の検問場所を問い合わせ、「今日はあそこが 危ない」と客に伝える。「悪いとは分かっているが店としては弱い立場。客が運転するとなるべく聞かないようにしているのだが……」と歯切れが悪い。
    ◇
 飲酒事故で家族を奪われた遺族の思いは複雑だ。99年に飲酒運転の車に衝突されて次女の真理子さん(当時20歳)を亡くした出雲市の江角由利子さん (64)は、署名活動や小、中学校の講演で命の尊さや悪質運転の根絶を訴えてきた。「飲酒運転がまた起きたと聞くと、無念な気持ちでいっぱいになる」。 10年以上たっても、娘や事故を1日も忘れたことはないという。
 江角さんはすべてのドライバーに向けて強調する。「(飲酒事故で)残された家族は一生のたうち回って生きていかなければならない。お酒を飲んだ時は自分が人の命を奪ってしまうかもしれない。それを忘れないでほしい」
 ◇検挙数、免許取り消し急増
 県警による飲酒運転の検挙数は増加している。過去3年の内訳は、09年222件▽10年296件▽11年301件と推移した。飲酒運転による免許取り消 しも急増している。09年77件▽10年178件▽11年192件になった。背景には、飲酒運転への取り締まり強化や厳罰化がある。
 改正道交法は09年6月に施行され、呼気1リットル中のアルコール濃度0・15ミリグラム以上の「酒気帯び運転」の違反点数が6点から13点に、0・ 25ミリグラム以上が13点から25点に引き上げられた。濃度に関係なく、正常な運転ができない「酒酔い運転」も25点から35点になった。
 県警によると、体重60キロの男性の場合、ビール大瓶3本の飲酒で、10時間後も体内には呼気1リットル当たり0・12ミリグラムのアルコールが残って いるのが目安という。交通指導課は「翌日のどが渇いたり、だるいなと感じたら運転を控えてほしい。朝早く運転する時は、早めに酒を切り上げてゆっくりと休 むことが重要」としている。
 

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