報道関係

2008年(平成20年)9月4日(木曜日) 毎日新聞
つむぐ思い:生命のメッセージ展in出雲 2児失った井上保孝さん /島根
<12〜14日 ビッグハート出雲>
◇小さなオブジェは問う

 01年に新設された「危険運転致死傷罪」は、悪質運転の厳罰化を求める全国交通事故遺族の署名活動がきっかけだった。99年11月、東名高速道路で酒酔い運転の大型トラックに追突されて2人の幼い娘を失った井上保孝さん(58)と妻郁美さん(39)=千葉市=も活動に参加。だがその後も、飲酒による重大事故はなくならず、危険運転致死傷罪が適用されないケースも裁判で相次いだ。「生命のメッセージ展in出雲」では井上夫妻の長女奏子ちゃん(当時3歳)と次女周子ちゃん(当時1歳)の小さなオブジェが展示される。12日には井上夫妻の講演も行われる予定。保孝さんに飲酒運転撲滅への思いを語ってもらった。【聞き手・小坂剛志】

◇飲酒運転撲滅、社会全体で

−−福岡市で06年夏に起きた3児死亡事故の1審判決では、飲酒追突した加害者に危険運転致死傷罪が適用されませんでした。

 ◆私たちの事故をきっかけに、悪質な飲酒運転を過失ではなく故意犯として厳罰化される、危険運転致死傷罪が新設されました。しかし、この法律は事故当時にどれだけアルコールの影響があったかを検察側が立証する責任があり、ハードルが高い。犯人が現場を逃走し、水を飲んだりして、適用されないような「抜け穴」があります。

−−そもそも危険運転致死傷罪は、厳罰化によって飲酒運転を抑止する狙いがあったはず。

 ◆遺族はこの厳しい罰則を設けた法律が抑止力となり、飲酒事故がなくなることを望んでいました。だが、「逃げ得」という行為がまかり通れば、抑止力が減じられてしまう。結果的に救急車を呼んでいれば、助かった命があったのに、加害者が逃げることで助けられなかったケースもあるのではないか。とにかく「逃げ得を許さない」「法律の抜け穴を何とかしなければならない」という思いを法改正につなげていかなくてはならない。そんな思いで署名活動をしていますし、3児死亡事故の裁判を見守っています。

−−昨年には、尼崎市で飲酒運転のワゴン車が3人を死亡させる重大事故が起きました。飲酒運転をなくすにはどうしたらいいのでしょう。

 ◆社会全体で抑止する必要があります。確かに、公務員や社員の飲酒運転に対する組織の対応は厳しくなりました。だが「懲戒免職」「懲戒解雇」というだけで本当に飲酒事故は社会からなくなるのか。ここまで飲酒運転に対する目が厳しくなっても、重大事故は起きています。そこにはアルコール依存症という問題があると思うんです。私たちの事故でも加害者は飲酒運転の常習でした。アルコール依存症でもハンドルを握る人がいます。重大事故になる前に、こうした人を周囲が見つけ、医療につなげることが必要ではないでしょうか。

 

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