報道関係

2009年(平成21年)3月25日(水曜日) 毎日新聞
 
さいたま市で開かれた講演会で命の尊さを訴える鈴木共子さん
 神奈川県座間市の造形作家、鈴木共子(きょうこ)さん(59)は00年4月、長男零さん(当時19歳)を飲酒・無免許運転の車によって奪われた。早稲田大に入学したばかりだった。
 当時、悪質な交通事故の加害者に適用されるのは、業務上過失致死罪で最高刑は懲役5年。がく然とした鈴木さんは、全国の交通事故遺族らと共に37万人以上の署名を国に提出、最高刑が懲役20年の危険運転致死傷罪を成立させるきっかけとなった。「法律の中に、命の重みをきちんと反映してほしかった」
 一方で「アートで息子を生かし続けたい」という思いが募り、交通事故や殺人事件で命を落とした人の等身大のオブジェや遺品を展示する「生命のメッセージ展」を発案した。01年に東京で開催したのを皮切りに、全国各地で既に50回以上を開催している。
会場のロビーでは「生命のメッセージ展」が開かれた=いずれも小泉撮影
 零さんを失ってから、鈴木さんの作品は「いのち」というテーマに向かい出す。昨年4月に東京都中央区で開いた個展では、紙粘土で作った秒針だけの時計約300個を展示。時間が止まったままの被害者への思いを込め、それぞれ形と色合いが異なる時計の横にはメッセージ展に参加する被害者の名前を添えた。
 鈴木さんは「命の重みを感じられるミュージアムを作りたい」という夢を描く。その夢は年内にも実現しそうだ。都内で廃校となる小学校の校舎を利用し、ミュージアム作りを計画。メッセージ展のオブジェを常設展示するほか、「いのち」にかかわる演劇、映像、音楽などを発信する。地域交流や自然体験なども企画。「身近な死を感じることで、大切な人のことを考えられる場所にしたい」と願う。
 2月6日。さいたま市の講演で「命軽視の風潮がまん延しているように思う。でも、他人ごとにしていては大切な命は守れないのです」と約450人の聴衆に語りかけた。零さんの事故を振り返り「絶望のふちをのたうち回るようだった」と表現した。
 メッセージ展は「生きたくても生きられなかった人たちの思いと対峙(たいじ)し命の大切さを実感する場。生きているのは当たり前でないのです」と訴えた。展示を見て自殺を踏みとどまる人がいると述べ、「いつの日か(米同時多発テロ現場の)グラウンド・ゼロで開催するのが夢」と語る。そして飲酒運転事故などで家族を失った人に「亡くなった人の分まで精いっぱい生きよう」とエールを送った。
 会場ロビーで開かれていたメッセージ展には、交通事故などの犠牲者の等身大オブジェや遺品が並んでいた。3年前に10歳の長男が無謀運転の車にはねられ死亡した埼玉県入間市の女性(55)は「生きる意味を見失っていたが、自分が何をすべきか分かった」と目頭を押さえた。さいたま市の無職、〓島徹さん(28)は「私も加害者にも被害者にもなる可能性がある。自分の身に置き換えて考えなければと感じた」と話した。【小坂剛志、小泉大士】
 

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