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先だった命(講演)

3.残された者達の苦悩―――死の事実にのたうちまわっています。
1)母


不条理・理不尽に苦しむ。特に母親というものは、本当に苦悩が深い、それは生きている限り続くものです。
 真理子の母つまり私の家内は、当分は寝込んでいました。2人の姉が京都と横浜にいるんですが、1週間くらいづつ家に来てくれました。1月の初めに鳥取の智頭警察署へ行って事情徴収を受けたり、真理子のアパートへ行って荷物の整理して送り返す作業をしたり、本当に辛い、むなしい作業がありました。部屋の中にある一つ一つが生前の真理子を思い出さすものばかりで、なんとも辛い涙の出る作業でした。そんな中で、家内は、ある本と出会いました。朝日新聞の記者であった佐藤光房氏の書かれた「残された親たち」と言う本です。この佐藤さん自身が娘さんを亡くされているのです。結婚式を目前にしたお嬢さんが婚姻届をか何かを出しに区役所の方に行かれる途中の横断歩道を渡っているときに暴走運転の車に轢かれて、1週間後になくなられたのです。結局花嫁衣装を着てお棺で、葬儀をなされたそうです。その佐藤さんがが、交通事故にあって、無念の死をされた数多くの方々を訪問されて、聞き取りされたことを6冊の本にまとめて出版されています。その本をむさぼるように読み、全国交通遺族の会に出会ったわけです。その会の井出会長さんに直接電話して、補償のことやら、裁判のことやら、ありとあらゆることをききまくったわけです。これを機会に、同じような境遇の全国の人と知り合うようになって来ました。本当に苦しい胸の内・苦悩を真剣に聞いていただける人にであったわけです。それは本当に大きな救いでした。まあ仏様に出会ったわけですね。
 私たち交通被害者遺族というのは、我が子への深い愛、加害者への強い憎しみ、予期せず被害者遺族となってしまった「なぜよりによって私が・・・」という戸惑い、交通犯罪の実体を知ってもらいたい気持ち、被害者遺族として現在の法律は、あまりにも加害者を擁護しすぎていること、被害者の立場はあまりにも軽く扱われすぎていることなどの発言の場が欲しいと考えるようになってくるわけです。
命の重さをわかってほしいと叫び続けるわけです。

 その中で、家内は、「生命のメッセージ展」に参加するようになりました。この代表者は鈴木共子さんという人です。
 鈴木共子さんとも知り合ったのは、平成12年の夏頃でした。この方は、一人息子を、飲酒・無免許・無車検で100kmを越えるスペードの暴走車に激突され、殺されました。その日は、一浪して早稲田大学第1文学部に合格、入学式を終えて間もない平成12年4月9日でした。鈴木さんは、美術家だったわけで、造形アートと言う手段で、被害者の叫びを細く永くいつまでも伝えることを考え出されたわけです。それが、この写真にある「命のメッセージ展」というものです。家内もこの呼びかけのすぐに賛同して、この写真にあるような真理子達3人のオブジェを毎回展示しています。
 この準備からなにから、大変な仕事ですけど、この展示を通して、気がついてみると、遺族同士で共有する時間、自分たちの手で創り上げる空間に癒されていく自分自身を感ずるようになっていったわけです。
次に、悪質交通事故の犯人の厳罰化を求めて・・・刑法改正署名活動も積極的に参加しました。
 これも、鈴木共子さんが始められた署名活動ですが、井上郁美さんという方がさらに強力にこの活動を展開していただきました。井上さんは、高速道路で後から来た飲酒運転のトラックに追突されて、後部座席にいたお子さん2人が焼死されました。前にいて運転しておられたお母さん郁美さんは、外に出て助けられた、助手席の旦那様は背中に大やけどしながら手術でなんとか助かった。子供は、見るも無惨になっていたとのことですが、この裁判で加害者は懲役4年の実刑判決だった。私どもの加害者は、懲役3年の実刑判決でした。あまりにも軽すぎる、こんなことだから事故が後を絶たないと考え、なんとかしょうとして鈴木さん、井上さん、家内を初め多くの被害者たちが刑法改正署名活動にたちあがりました。
もちろん家内も熱心に取り組みました。私も協力をしました。
合計で37万4339人の署名をときの森山法務大臣に平成13年10月22日に提出しました。
平成13年11月28日、参議院で刑法の一部改正する法案が全員一致の229対0で可決しました。この法改正により、「危険運転致死傷罪」が新設されました。従来、交通事故の加害者に一般的に適用される罪名は「業務上過失致死傷罪」でしたが、この法改正により、酒酔い運転や、意図的な信号無視などの悪質な交通違反は、過失でなく故意犯として扱われ、新たに設けられた罪が適用されることになりました。刑罰も傷害致死罪に準ずるとして厳罰化が計られ、人を死なせた場合、懲役1年以上の有期懲役で最高15年に処せられることになり、従来のものに比べて3倍に引き上げられました。また、人にケガをさせた場合でも最高で10年の懲役となりました。悪質なドライバーに対してあまりにも刑が軽いと訴え続けたことが認められました。32年ぶりの刑法改正につながったわけです。
 そして、平成14年6月1日、道路交通法改正により、飲酒運転などの罰則は非常に厳しいものとなりました。今回の法改正で、交通事故の犠牲者が1人でも減ってくれれば良いと願っているところです。
 
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