メールを送る

先だった命(講演)

2.先だったいのち


 平成4年に仁照寺住職の父が亡くなりましたので、私が住職に就任しました。そして、大学教授と住職の2足のわらじをはいて今日まで来ています。平成7年には、寺の近くに島根県立看護短期大学が開学しましたので、そこに転職しました。そして研究も物理学から看護学という全く未知の物をてがけてきています。現在、8年目です。

その事故は、突然に、本当に突然にやってきました。

 その電話は、平成11年12月26日午前4時頃になりました。娘が鳥取で、交通事故に遭って重体だというわけです。驚いて雪の降る中を鳥取中央病院までかけつけました。途中で携帯電話に警察からの電話で「亡くなられました」と入りました。病院で対面したときは、まだ暖かかったですね。隣に友達の大谷知子さんの遺体も並んでありました。同時に3人が死んでいました。もう1人の大庭三弥子さんは別の病院で亡くなっておられました。私は乗ってきた車で真理子を連れて帰りました。
 医者は、気が動転しているわけで、一人では危ないからと言うことで、真理子の友人が一緒に乗って帰りました。真理子の遺体は、車になかなか積めませんでしたので、毛布に包んで後部座席を倒して、トランクから入れました。思えば入学の時は、真理子を乗せて将来の夢などを語りながら、この車で真理子の鳥取市のアパートまで荷物を積んでいった同じその道を、今度は、物言わぬ真理子を連れて帰ることになりました。なぜこんなことになったんだろうと思いながら、悔しかったですね。まあ、事故もせずに帰ってきました。

 葬式は、まさか自分の娘の葬式をするとは思ってもいませんでしたから、無念さ・悔しさ・「なぜ自分だけが」という残念な思い、加害者への怒り、そんなものがぐちゃぐちゃに入り交じっていましたね。


真理子葬儀の会葬謝語

本日は皆様方年末の忙しい中をこのように大勢の方にご会葬いただきまして、厚くお礼申し上げます。
 この機会に真理子のことにつき申し上げたいと思います。
二日前の突然の電話で雪の降る中を車で鳥取中央病院に駆けつけたとき、真理子・真理ちゃん、なんという変わり果てた姿をしていたでことでしょう。それも隣に君の大の仲良しの大谷さんと並んで変わり果てた姿をしているのではないか。なんということだ。無念・残念でしかたがない。憎むべき交通事故、飲酒運転で正面衝突した車、なんと不運なことか。
 思えば真理ちゃんは本当に良い子でした。そしてがんばり屋・努力家でした。ご飯を食べながら英単語をおぼえていましたね。今年の夏は姉の悠子と共に自分でためたお金でヨーロッパ研修に約一カ月でかけ、大きな夢を考えていましたね。
 母さんへの最後になった手紙では「いつもお世話になっています。ありがとう。イタリアのフィレンツェで買ったお土産を渡していなかったので、帰るまでまだ時間もあるし、郵便で送ることにするね。私とお姉ちゃんの趣味で選んだのだから、気に入ってもらえるかどうか分からんけど、たまにはおしゃれした時に、このネックレスをつけてくれるとうれしいな。今年もいろいろあったけど、もうすぐ終わるね。早いもんだ、もう大学生も残り少なくなってきていやだよ。(途中略)
では、年末に島根に帰るのを楽しみにしています。」
 なのになんという過酷な運命なのか。君はまだ二十歳なのだ。姉の悠子ちゃん、弟の泰俊二人とも失った悲しさにずっと泣き続けています。
 真理子、君の名前の真理は、お父さんが理学博士の学位をとったその年に生まれたので、真理の探究という意味で真理子とつけたと話しました。いま真理とはなにかと考えてみれば、まさしくこのような「無常の風が吹くこと」こそ真理なのだとわかりました。それを真理子は父さんに身をもって教えてくれました。「先立つ子は善知識」といいます。真理子は父さんにとってまさしく善知識さまでした。真理子、父さんはこのように君の亡くなった日に、坊主頭になりました。仏教のいう無常の世が本当の真理だとわかったのです。
 おばあちゃんは、君のために歌を作りました。「突然の無常の風にさそわれて、花の二十歳で涅槃の世界へ」
真理子の浄土での冥福を祈ります。
 長々と真理子のことを聞いていただきありがとうございました。本日は皆様方のおかげをもちまして、大過なく葬儀を終えることができました。心からお礼申し上げます。
ありがとうございました。

合掌
平成十一年十二月二十八日仁照寺住職 江角弘道

 ここにおられる岡本先生からも短文の手紙が来ました。『「会者定離」さはさりながら窓の雪』とだけ書いてありました。まことにそうだなと手を合わせました。仏教では会者定離は対句で前の句は「生者必滅」です。生者必滅会者定離。 人は、「生まれたときから、一歩一歩死に向かって歩いている旅人ですね。」
 
<< 前のページ 先だった命(講演)トップ 次のページ >>

無断転載はご遠慮ください。